九月の梅雨




どろどろ、どろどろ、まとわりつくように。




家に帰ったら、明かりがついていた。
朝に全部消したのに。


僕の家は多分裕福なほうだ。
やたらに広い家があり、住むにも食べるにも苦労した覚えは無い。
父も母もそれなりの人格者で、とても良い親だと思う。
仕事してないといられないような人たちだから、めったに家にいることはない。

今日は帰ってくる日だったっけ?
だとしたらこの格好はマズいな、と思う。
いや、まずくないのかな。
いつもは羽織るだけの学ランを、上まできっちり留めて着ていても、いつもを知らないのだから気付かないだろう。

まぁそんなことどうでもいいかと玄関のドアを開く。
鍵は開いていた。
見えたのは、土で汚れたスニーカー。
…と、いうことは。


「お、帰ってきたか恭弥!」

リビングから元気に声をかけてきたのは、笹川了平だった。
今日もあいかわらず馬鹿そうだ。
母親同士の仲がよく、小さなころからよく一緒に遊んでいた。
というか僕が笹川家によく預けられてた。
つるむ相手が違うから(そもそも僕も了平もそんなにつるんだりとかしない)学校とかで一緒にいることはないけど。

母さんはこの馬鹿がひどくお気に入りで、僕らが中学に上がるときに自分の仕事が増えるから、と、何故かコイツに家のスペアキーを渡していた。
それでたまに了平が家にくる。

今日来るなんて、なんて嫌なタイミング。


「む、どうした恭弥。学ランなんぞ着て。」

僕は、答えない。答えられない。
頭が混乱してるみたいで、了平も大きくなったな、と思った。

「夕飯は食ったか?チャーハンなら作ってあるぞ!」
「いらない。邪魔だからどいてよ。」


目の前の了平を押しのけて、浴室に向かう。
メシはあっためとくぞ、と、暢気な声が後ろから聞こえた。


きもちわるい。きもちわるい。
どろどろ、どろどろ、肌にまとわりつくような気持ち悪さが、まだ残っていた。

服を脱ぐのも面倒で、そのままシャワーのコックをひねる。
ザァァ、という音がして、頭から冷水を浴びたら、もう動けなくなった。
全身から力が抜けた。


ついには立っていられなくなって、冷たい床にへたりこむ。
滴る水を見ていたら、面白くもないのに口から乾いた笑いが漏れた。

ずっとずっと、このままこうしていよう。



気持ち悪さは、まだ消えない。






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