雲の音がする
さわって、了平、さわって、
うわ言のように繰り返す恭弥を、俺は力いっぱい抱きしめた。
予め作っておいたチャーハンを温め、再びテレビの前に戻る。
ひととおりチャンネルを回してみたが、恭弥が帰ってくる前と同じで、特に興味をそそられる番組はやってなかった。
それでも適当な番組を点けたままにして、なんとなくシャドウボクシングをはじめる。
しばらくやって、その番組が終わるころにはさっき始めた見えない相手との試合にKO勝ち。
相手もなかなかの強豪だったが、極限全力な俺の敵ではなかった。
などと考えているうちに、恭弥のことが気になってきた。
先刻帰ってきたときの、あの尋常でない様子。
あんなにきっちり制服を着た恭弥なんて始めてだから、ちょっと幼く見えた。
あれが流行っているのだろうか。まいぶぅむ?みたいな。いや、それでは京子か。
心ここにあらずというかなんというか。
あのまま風呂なんかに行かせてよかったのだろうか。
ん、風呂?
そういえば恭弥は俺と同じでどちらかといえばカラスの行水というヤツではなかったか。
ソコまで考えて時計を見ると、よく覚えていないが確実に数十分はたっていた。
・・・考えるのは性に合わん。
そんでとりあえず風呂場に来てみれば、すり硝子の向こうには黒。肌色でなく、黒。
あわてて扉を開けても、学ランのままで水を浴び続ける恭弥はピクリともしなかった。
放心しているようなので、とにかく水温を40度まで上げた。
その後、何度か呼びかけていたらこの状況。
何だというのだ、まったく。
ためされているのか、と思う。
俺は恭弥が好きだ。
中学に入ったころから、いや、もっと前からかもしれない。
恭弥は幼馴染で、あるとき突然気がついたのだ。
たしか、部活の先輩にAVとやらを見せられたとき。
黒髪の女子に、知らない間に恭弥を重ねていた。
それからしばらくはずっと恭弥のことを考えていて。
そしてそれがそれまでと何ら変わっていないことに気付いた。
俺の中にはとうに恭弥がいたのだ。
そしてそれは恭弥にとっても同じだと信じていた。
それが恋情でないにしても。
抱きつく恭弥を少し遠ざけ、瞳を覗いてみても、俺は映っていないようだった。
重たくなった上着の下には、赤い花弁が散っていた。
3 5